企業は、いつ経営が不振になるか分かりません。
今でこそこうした認識は広く一般的なものとなりましたが、かつてのバブル景気の絶頂時などは、経済自体が打てば響くようなもので、何かを投資すればそれに見合うリターンが必ずといっていいほど見込め、大手企業イコール永年安泰という図式が成り立っていたものでした。
しかし、バブルが崩壊した後は経済が不安定になり、大手企業であっても、その舵取りを誤れば一気に転落の一途を辿ります。
経済とは生き物であり、定石こそあれ、時代の潮流をもっとも反映し、これさえ行えば永劫の安寧が保証されるというものでもないので、企業はある種、時代の風を敏感に感じっとて帆を進める航海士でなくてはなりません。
株式会社インクス民事再生をご存じでしょうか。
1990年7月に設立された、3次元CADを得意とする下請会社でした。
下請けとはいえ、高い技術力と経営者のカリスマ性で多くの話題をさらった、ITベンチャーの寵児でした。
独創的なビジネスモデルに学生たちは感化され、多くの有能な大学や大学院を出た技術者が入社し、経営は順風満帆かと思いきや、しばらくして経営状態は悪化し、自ら立ち直れないほどの負債を抱える結果になります。
そうしてインクスは倒産し、民事再生を申請したのです。
これが株式会社インクス民事再生です。
このことから学べることは、ビジネスモデルを持った経営者、有能なエンジニア、それに企業の高い技術力があったとしても、時代の求めるものに合致しないものを生産してはいけないということでしょう。
時代の風を感じるとはそういうことであり、市場が何を求めているかを正確に把握することにほかならないのです。